このページは TYU-MOKU.COM さま の取材・文章によるものです。ありがとうございます。
また記載は2005年4月当時のものです(いまではずいぶん変わっています....)



“お取り寄せ”に対応するために 【知床三佐ヱ門本舗】町田義隆様

【知床三佐ヱ門本舗】町田義隆様

■カタログ通販からWeb通販へ

【知床三佐ヱ門本舗】
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  今回ご紹介するのは、北海道は知床半島で獲れた厳選された海産物を加工販 売している 【知床三佐ヱ門本舗】Webマスターの町田義隆様だ。ブームともなっている 「お取り寄せ」 の特集でも数々紹介されている同店であるが、希少な食材を扱っているため、売れれば売れるほど仕入れが難しくなる、といった側面もあり、商品確保も簡単ではない。常時販売できるものばかりでもないため、同店では各商品ごとに独自の情報メールを使い分けるなどして管理されている。生産地において希少な食材を扱うことの難しさなどを伺った。

 同サイトを運営されている「有限会社くわはら商店」は、その名の通り北海道知床半島の羅臼町に拠点を置き、水産加工会社として約40年の歴史を持つのだそうだ。その同社が、地元で水揚げされる水産物の加工、そして通信販売を中心とした小売業という業態を取り始めたのは1986年ごろのことだという。

 実は同氏の前職はプログラマーであったとのことで、ネット関係には元から精通されていたように思える。しかし、その経験は現在のWebショップ運営にはほとんど役立つこともないそうだ。「第一勧銀本店システムや政府管掌年金のプロジェクトなど、メインフレーム(大型マシン)の業務しか経験がなく、正直パソコンはバカにしていたふしがあります。」 しかしながら、1987年ころ、あるコンサルタントからの勧めもあり、パソコン通信での通販を手がけられたこともあったそうだが、実際には 「注文は2件のみ」 と、大失敗も経験されたのだそうだ。

 こうして、しばらく業務上でパソコンを全く使用しないような時期が続かれたそうだが、本業であったカタログでの通販も、決して不振であった訳ではないそうだ。今となっては “非効率的なもの” として捉えられがちなカタログを送付しての通販も、ギフト用に使用される分には全く支障なく、効率的に廻っていたという。「DM一通あたり一件ではなく、お歳暮は5件〜30件くらいに注文いただくわけですから、そんなにコストがかかるものではないのです。」 このお歳暮時期に全売上げの6割を稼ぎ出すという、少々極端ではあるが、大きな問題もなく営業出来ていたそうだ。

 しかし、「既存の顧客の高齢化が目立ち、毎年買っていただいたお客さまがどんどんいらっしゃらなくなるのは、売上的にもそうですが、実際つらいものがありました。」 現状ではそれなりに売上げになっているが全く新規顧客開拓の目途が立たない状況、Web通販へ乗り出す前はずっとそんな状態が続いていたようだ。


■きっかけは大前研一氏

 同氏が私生活でネットを使用し始めたのが1995年のことだったそうであるが、「当時は 『ネットでナマモノは売れないだろう』 と思っていました。」 と、まだまだ早いと感じられていたという。しかし、転機は思わぬところからやってきた。その頃、同氏は大前研一氏のビジネススクールに入っていたそうだが、「直接お会いした際、『インターネットを普及させるためのTV番組を企画してる。東京の料理屋がネットで北海道の魚を注文するというシーンが欲しいんだけど?』 と言われました。」 その北海道の魚屋になってくれ、との依頼であり、これがきっかけとなって、1997年1月に同サイトが設立された。

 当時のことを振り返られて、今でこそ 「最初からマスメディアに取り上げていただく幸運があったのですね。」 とも思われるそうであるが、如何せんまだネット通販が浸透していない時期のことである。順風満帆に、とは行かなかったそうだ。「商品のメインはそれまでの通販の製品である『鮭の粕漬』『たらの粕漬』でした。粕漬のお客さまは年配の方が多く、1997年頃のネットユーザー層とは明らかにマッチしておらず、大変苦戦しました。」

 元々、「ネット通販も、前述の大前氏に依頼されなければやらなかったと思います。」 というレベルの意識であり、さらに売上げが伴わなければサイトを更新する意思も薄れていくものだ。通販サイトはそのまま放置に近い形となり、その一方で 「友人とネットビジネスプラン構築に没頭していました。」 こんな方面に力を注がれていたのだそうだ。こちらも、「2000年にはビジネスプランコンテストで入賞、ソフトバンク孫正義氏らの前でプレゼンするところまで行きました。」 というところまで達しているとのことで、この方面でも大きな成果を挙げられているのだそうだ。

 その後、サイト運営は徐々に軌道に乗り始め、売上げも上がってきたそうであるが、サイト開設から数年経った1999〜2001年ごろ、最も大変な時期を迎えられていたという。「ネットでの売上が3倍に伸びたのですが、それも売上全体からみれば、5〜20%になっただけですから。」 労力と売上げのバランスが悪く、“手間が掛かる割には” という状態が続いていたようだ。それでも現在では、「サイト全般は私とサテライトスタッフの2名、製造・出荷に3〜5名です。」 という人員で、「ネット通販が売上の50%以上を占めるようになりました。」 と次第にその比率を高めてきている。


■“品切れ”表示も多く

会員制の「ケイジ」販売ページ
 同店の販売する商品は、地元知床で獲れた新鮮な素材を使った「生うに」「しまえび」「いばらがに」「天然鮭」「粕漬」などとなる。どれも地元だからこそ可能ともいえるような、素材からこだわり抜いた贅沢な食材であり、決して安価なものではない。もちろん販売できる数量にも限りがあり、そういった面では非常に難しい商材なのだそうだ。

 何も知らずに同サイトを見ていくと、“品切れ” の表示がされている商品が多いような印象を受けるかもしれない。「弊店の場合、少量しか販売できないものも多いのですぐに売り切れてしまい、“いつ見ても品切れ” と言われることが多いのです。在庫管理システムで品切れ表示が出るようになって助かりました。」 それも厳選された商材のみを販売している証であり、商品特性上致し方ないことのようだ。

 また旬のものを扱うため “季節商品” の扱いとなる商材に関しては、専用のページを消さずに残しておくという手法を取っているそうだ。このページの使い方は只の販売告知に留まらず、「例えば 『生うに』 のように、季節外の場合にはメール会員を勧誘するページにしておいて、その方には “生うにだけ” の情報メールを流すようにしています。」 各商材ごとに、独自の情報提供をされているのだそうだ。こうすることによって、必要な情報を必要な方に優先的に届けることができるようになり、通常のメールマガジンよりもピンポイントで攻めることができるだろう。

 さらにその考えを推し進めて、“まぼろしの鮭ケイジ(鮭児)” のページでは、事前に会員登録した方にしか公開しないような作りをされている。幅広くユーザーを引き寄せたいというWebショップの本質からは全く逆方向の方法であるが、これも全ては 「人気があって品物が少ないものだからです。」 という理由からだそうだ。「お客さまに誤解されますので、品切れになったらすぐに買い付ける、または追加製造できるものといっしょに売るわけにもゆきません。また、人気のある商品は “たくさん買うと安くなる” というのは、工業製品でもない限りあり得ません。」 無理をしてしまうと市場価格を吊り上げてしまいかねない、そんな微妙な、そして希少な商材を扱われているため、それなりの制約も多くなってくるのだろう。


■マスコミとの付き合い方

先々代が生み出したという「しれとこ粕漬」
 また、そういった希少な食材を扱っていることもあるのだろう。最近ブームとなってきている 「お取り寄せ」 といった企画で、同店が紹介されることも多いようであり、傍目には非常に羨ましく写るだろう。マスコミとのパイプをお持ちであるか、熱心にコンタクトを取られているのかと思いきや、一度も売り込みなどをされたことが無いのだそうだ。先方からの申し込みで取材を受ける際にも、提供するのは 「5,000円程度まで」 と決められているそうで、それ以上になると全て買い上げてもらっているのだという。

 「以前、超人気番組のディレクタが弊店のある高額商品を取り上げたいというので、“買っていただけるなら” いいですよ、とお答えしました。」 ものすごい宣伝効果があることが分かっていながら、その決まりごとは守られたのだそうだ。結局お断りされたとのことであるが、そうした決まりごとを守るのにも理由がある。マスコミで話題になってしまうと、価格が高騰して仕入れがますます困難になり、自らの首を絞めてしまうことになる。宣伝効果が得られたとしても安定した供給が出来なければ混乱だけが残ってしまう事態になりかねないだろう。

 これまで様々な媒体で取り上げられてきた経験から、紹介されてからの1〜3日間、爆発的な電話攻勢にあうテレビ、掲載後に断続的に電話がかかってくる新聞などで紹介されることも重要であるが、一見したところ売上げに直接的な効果は感じられない「雑誌」への掲載を重視しているのだそうだ。「サイトでの紹介は最も効果的になるので、実は雑誌への掲載が一番重要です。」 こうした考え方をされているのも面白い。

 しかし、このようなネット通販を繁盛させるためのご苦労よりも、日常の業務の方がよほど厳しいのだという。「ネット販売での苦労よりは、製造がマイナス25℃以下の中で行なわなければならなかったり、実はそちらの方が大変です。弊店のバックヤードをみると、あまりにもしんどいので他の商材や売り方をした方が良いと思ってしまうでしょう。」 寒さの厳しい北国で、自然の恵みを得て商売を営むのであれば、それ相応のご苦労があるのだろう。同店は、今後もこだわり抜いた食材を届けるために、様々な展開を見せてくれるに違いない。その展開を期待を持って拝見したいショップだといえるだろう。
※なお、同氏が主催するソーシャルネットワーキング(SNS)「美味し会」が開設され、参加者を募集されているそうだ。「お客さまとのふれあいの場です。もしもご参加希望の方がいらっしゃいましたら、info@siretoko.com までお問い合わせください。」とのことであり、希望される方はご連絡をされてみるとよいだろう。