不思議な製品です。
このチョコレートの製造秘話を、製造元・まほろばの宮下社長が語ってくれました。
以前、「ANCIENT WISDOM 古代の叡智」という香水を作ったことがあったのです。別名「キリストの俤(おもかげ)」といいます。
バレンタインチョコの製作依頼があったとき、躊躇なくイメージしたのが「イエスのショコラ」です。
ただ宗教色が強いので『サラ』というオリエンタルな響きの名に変えました。
なぜ、「イエス」かというと、その不思議な材料にあるのです。
もともと、私はチョコレート好きでも何でもないのですが、ある閃(ひらめ)きがあったのです。 それは、イエス誕生の折、東方の三博士が馬小屋に来て祝福し、金と乳香(フランキンセンス)と没薬(ミルラ)を献上した、と聖書に記されているくだりです。
また、イエスが磔刑に処される前、マグダラのマリアが高価な香油・スパイクナルドを求めて、自らの髪でイエスの足を拭いたとされています。
これらイエスに由来する香油と金を用いたいと思ったわけです。
さらに十二使徒との舞台となったナザレ地方とガリラヤ湖を彷彿(ほうふつ)とさせるイエスに縁(ゆかり)の深いイスラエルの塩を用いたらどうか、と。
おそらく、砂糖の種類と量の工夫をするパティシエはいても、塩を用いるアイデアはないでしょう。
それは素人の発想だから。ところがこれが意外にも、渋くお洒落な大人の味わいに変貌したのですね。
舌の上に残るざらつき感、そして感触のその都度の変化は、たまらなく面白い仕立てです。
もしかしたら、
これはチョコレートの革命かもしれない。
まだ発売前だった「七五三(なごみ)塩」も添えました。この七五三塩というのは、世界を覆う七つの海、五大大陸、三つの山脈から出る塩を0−1テストで一つにブレンドしたものです。
とりもなおさず、イエスの説く「すべては一つなるもの、人類なる兄弟は一つなり」という愛のメッセージを象徴的に形に具現したものと言えます。このチョコにある種の風格を添え漂わせるものになりました。
金泊を表面にあしらえてあります。金は、如何なる時代に貨幣価値が変動しようとも変らざる普遍性を持つのです。錬金術士のめざすこの物質こそ不変の鉱物、賢者の石エリクサーです。キリストの精神も不変のものですから。
そして、まほろばで開発したフォロパシー「とほかみ」が噴霧されています。
これは、まほろば浄活水器エリクサーを製造する過程でできました。700種類以上の自然界の混沌としたエッセンスが凝縮されてます。
それをホメオパシーの製造法で200回希釈振とうを繰り返したもの。霊的な癒しをもたらします。これは、ヨハネによる「水の洗礼」を暗示し、イエスの奇跡の浄化と祝福を意味します。
材料調達には困難を極めましたね。
今度のチョコの試作も最初のテストでいとも簡単にレシピは完成されたのですが、その後、何種類かの中心をなすカカオが入手困難になったのです。
しかし、結果としてそれが思索と認識を深める過程を生んでくれたことになります。
一般にチョコの決め手は「クーベルチュール」という加工チョコの材料の質によって決定されます。
分離されたカカオマスとカカオバターとパウダーミルクと砂糖をいかにして配分するかが、そのチョコを特徴づけるもので職人の腕の見せ所。
ただ、既成のクーベルチュールだけでは、際立った個性的な特徴づけができなくなるのですね。カカオマスとバターから自分なりのチョコを作り出すのは、設備と経験と職人技が要るわけです。
ドイツの知人に依頼して、ヨーロッパ市場に出回っているオーガニックチョコを集められるだけ集めて送ってもらいました。すべて試食したのに、どれ一つとして満足できるものがなくて、「サラ」をイメージするものがなかったのです。
玉生シェフと、度重なる0‐1テストで試作を続けました。原材料は、すべてオーガニックの厳選したものです。
一般に流通しているチョコのように多くのフレーバーや質を選択する幅がなく、それでいて高価であることは言うまでもないでしょう。
そこで知ったのは、世界の名立たるチョコの名品の裏で、いかに多くの添加物が使われているかという事実。
あの光沢や、舌にとろけるような味わいは乳化剤なしにはできないし、香料も人工がほとんどだったんです。
しかし、基本的に、オーガニックチョコには共通の味わいの底辺があります。「サラ」にも、同じ通奏低音が響いていて、それは本物の味に連なっている毅然として素朴な自然の感触ともいうべきものでしょう。
結局、四カ国・六種類のオーガニックのカカオマスとクーベルチュールで完成を見ました。
エクアドル、ペルー等々、原料もミルクパウダーに至るまでオーガニックにこだわりぬきました。
肝心の砂糖ですが、単糖類から多糖類まで混成させたまほろばオリジナルの「ひふみ糖」であることは当然です。
型も成形したものにこだわらず、素朴で自由なものです。
このチョコレートの表面は紙の皺(しわ)が多様な変化を生んで、自然な落ち着きをはらんでます。
そうなると、パッケージも麻やパピルスを思わせる紙の織りを用い、またプレゼントのインパクトが何時までも心に残るようにと、木の箱を思いつきました。
あの「結」の銘品を生んで下さった下川町木工センターに依頼して木筒が届きました。
食べ尽くした後も、それを再生、再利用して後々に残して欲しいと思います。
シールに画かれている天使は、欧州プロヴァンスの教会にある「SARAH」の像です。
チョコの味わいの奥に、無限の世界が開かれている予感を感じて戴ければ、作者の喜びこれに過ぎるものはありません。